成年被後見人の方との出会い
弁護士の業務として成年後見業務に携わることも少なくありません。
成年後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がい、病気等による後遺症等によって判断能力が十分ではない方を保護するための制度です。
成年後見事件は、関係者から後見開始の審判申立てがなされるところからスタートすることになります。
この点、親族の方からの申立ての場合等は、成年後見人に就任した後、その親族の方からいろいろな事情や経緯をお聞きすることができることが多いのですが、いわゆる市町村長申立ての場合にはそのようにはいきません。
市町村長申立てとは、成年後見制度の利用が必要な状況であるにもかかわらず、本人や家族によって申立てを行うことが難しい場合など特に必要があるときに市町村長が後見開始の審判申立て等をすることをいいます(老人福祉法第32条等)。
市町村長申立ての案件の成年後見人に就任する場合は、具体的な経緯等を知る人が近くに誰もいないといった状況も決して珍しくありません。
また、成年被後見人のご本人は満足に話ができる状況ではないことがほとんどです。
成年被後見人の方の今までの歩み
上記のようなケースでは、自分が成年後見人に就任し、成年被後見人の方のために成年後見業務を開始してはいるものの、成年被後見人の方がそれまでどのような人生を歩んできたのかということがほとんどわからないというケースも珍しくありません。
もちろん、成年後見人の方から親族の方に接触を図ったりするのですが、このようなケースではそもそもご親族と連絡が取れなかったり、必ずしも協力いただけない場合も少なくありません。
ですので、成年被後見人の方がそれまでどのような人生を歩んできたのか具体的にわからない状況で何年も成年後見業務に携わるということもあります。
ですが、意外なところから、成年被後見人の方の今までの人生を垣間見ることになることもあります。
たとえば、お寺さんから何らかの費用のお支払をお願いする手紙が本人宛に届いたり、地元の親睦団体等から本人宛に手紙が届いたりしたときに、その詳細を確認するためにこちらから問い合わせの電話をすると、それをきっかけとして、ご本人の過去をよく知る方から、ご本人の生い立ちや仕事の内容、人柄等を聞くことができることがあります。
そのような話をお聞きすると、今では意志疎通ができない成年被後見人の方が、より近くに感じられ、業務のモチベーションにもなります。
成年後見業務の終わりに
身寄りのない成年被後見人が亡くなった場合、成年後見人(厳密にはその時点では元成年後見人ですが。)として、ささやかな葬儀を執り行うこともあります。
そうすると、今まで疎遠だったご親族の方が、「葬儀くらいは・・・」ということで、遠方から来ていただけることもあります。
そして、それらのご親族の方から、ご葬儀に際して、成年被後見人の生い立ちや人柄等(ときには、親族が疎遠になるきっかけも。)をお聞きすることができることもあります。
成年後見業務の終わりに成年被後見人の方の人生に想いを馳せ、静かに、ご冥福をお祈りしつつ手を合わせます。